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アクセシビリティ対応ってなんだ

アクセシビリティー対応とかいう害しかないクソ」という記事が話題になっていました。 これ読んで、胸がキューッとなりました。だって、ついこのあいだまで、私はここに書いてあるようなルールがある組織にいたからです。

このもやっとした、きゅーっとなる思いをうまく言葉に出来るか自信がないのですが、なのでできればよく知ったアクセシビリティ界隈の方に、この思いを聞いていただけたらと思っていたのですが、 多くの人の目に触れるかもしれないWebの上に、恐れずに書いてみようと思います。

私がいた組織のルール

公式サイトはCMSを利用し、基本的には全ての社員が新規ページを作成したり、現在あるページを更新したり出来るようになっていました。 ページの公開や更新は、ウェブサイト担当課がCMS上で承認すると公開サイトに反映されます。ウェブアクセシビリティに関する社内研修は毎年行いますし、 ウェブアクセシビリティに関する方針や社としてのガイドラインもありますが、全ての社員がウェブアクセシビリティについて、JISについて、WCAGについて、 しっかり理解しているわけではありません。なので、CMSでウェブページを作成・更新するにあたり、具体的なルールを求められます。 JISやWCAGを知らなくても、アクセシブルで、JIS X 8341-3のAA準拠ができるウェブページを作成できる必要があります。

大きな枠組みはCMSで、JIS X 8341-3のAA準拠ができるようになっています。(なっているはず、なっていなくてはなりません。)
社員が新規作成・更新する部分をアクセシブルにするために、これらのルールがありました。

日付は「7月28日(火曜日)」と書くのがルールでした。年についても「2020年」と書くか「令和2年」と書きます。「R2年」はダメです。

「詳細はこちら」はダメです。外部サイトにリンクする場合は、そのページのタイトルとサイトの名称までリンクテキストに含めるのが基本です。 リンクは外部サイトでも同一ウィンドウで開くのが原則で、別タブや別ウィンドウで開く場合はそれがわかるようにします。 公開ページでは「(別ウィンドウで開く)」と自動的に表示され、スクリーンリーダーでも読み上げられるようにしてありました。

期間や数字の幅をあらわす「〜」も可能な限り「から」とひらがなで表記します。

他にも、時間は「8時30分」のように書く(「8:30」はダメ)とか、単位は「平方メートル」のように書く(「m2」はダメ)とか、 機種依存文字は使わないとか、電話番号は市外局番から半角数字で書こうとか、いろいろありました。

スクリーンリーダーに正しく読んでもらいたいと思う気持ちはクソですか?

大多数の社員が、目で見てマウスを使ってウェブページを利用しています。 そんな中、キーボードでの操作はまだ想像ができても、スクリーンリーダーを使ってウェブページを聞いて利用している人がいることは、なかなか想像ができません。

機械的に正しく読み上げられない表記をなるべく避けようと思うのは、「クソ」でしょうか?

一般的な表記なら、見て読む人が「7/28」を「7月28日」なのか「28分の7」なのかを前後の文脈から判断できるのと同じように、 スクリーンリーダー利用者も読みがそのとおりでなくても文脈から判断できるのかもしれません。それでも、正しい読みをしてもらえる表記にすれば、すんなり理解してもらえていいよね、と思うのはクソでしょうか?

だからって、見ている人にとって読みづらいものになるのは違う

とはいえ、可読性が悪くなるとか、このルールのために固有名詞を曲げるとかそういうことはしない。 その上で、できる範囲で、読み上げにも正しく読まれる表記をしていきましょうというルール、というか、マインドでした。 私はそういう社員の気持ちが好きでした。だから、叶えられるように一緒にいろんな工夫をしてきました。

「平方メートル」という単位も、同じページ内で繰り返し出てくるのにこの表記だと、見る人には負担です。 ならばはじめに出てきた「m2」に「m2(平方メートル)」として、あとは「m2」だけにしたらどうかな?とか。

日付や曜日については、サイト内では同じ表記に揃えることになると思うのですが、年月日の表記の順番は国によって違ったりするから、日本語を母国語としない人が見たとき、翻訳するとき、 「2020年7月28日」と書けばしっかり年と月と日がわかって良いのでは?読み上げもそのとおり読まれて良いのでは?
曜日も「(火)」だと「ひ」と読まれることもあるみたいだけど、「(火曜日)」って曜日まで書いても別にそこまで見づらいとかないよね、ならちゃんと読み上げられる表記がいいね、という感じで採用されています。

スクリーンリーダーの読み上げ以外でも、全ての人がより使いやすくなるように

「機種依存文字は使わない」は、ガラケー対応な部分もありました。でもこれも、もし表示されない可能性があって、別の確実に表示されるであろう表記があるならそちらを使おうという意味合いです。

「電話番号は市外局番から半角数字で書く」は、半角数字で書くと、スマホでの閲覧時に、特にマークアップしなくてもスマホのブラウザの機能で、 タップして電話をかけることができるようになる事に気づきました。それまで全角で書いたり、市外局番を書いてなかったりしていたページもありましたが、 CMSでの編集で一般社員でもできる事だから、利用者にとってもスマホのブラウザの機能でタップで電話がかけられるようになって便利になるんだからと、半角数字で書こう!を採用しました。

アクセシビリティは対応するのではなくて

日付や曜日の表記についてや読み上げが確実ではない記号を使わないなど、一般的に利用されている表記を読み上げに対応させるために制限することは過剰なやり方で、時代遅れでもあるかもしれません。 でも、上記のような思いでやってきた者として、「クソ」だと言われるのは悲しかったし、時代遅れだと言われるのもさみしい気持ちになりました。

アクセシビリティは対応するのではなくて、当たり前に、当然に叶えられるべきものだと思っています。また、アクセシビリティは「弱者への配慮」ではありません。

マークアップとか、HTMLとか、CMSって何?っていう人たちが、全ての人にわかりやすい、理解してもらえるウェブページにするにはどうしたらいいか考えて、工夫しているのを私は見てきました。 時にはスクリーンリーダーを意識しすぎて過剰反応していたり、ビジュアルにこだわって画像を多用していたりして、ページも考え方も修正しないといけないこともあったけれど、 どれも、訪れる全ての人にわかりやすく、理解してもらいやすくするために、自分ができる範囲で、できることをいろいろ考えていた。

あの記事を書いた人がどういう立場の人だったのかわからないけれど、アクセシビリティについて知らなくて、これをやれとだけ言われていたとしたら、 「クソ」と思うかもしれない。どうしてこうやるのか、どこまでやるべきなのか、ちゃんと説明してくれる人がいたら、もっと違った風に思えたかもしれなくて残念です。

ウェブの技術はどんどん進んで、きっともっと便利に、使いやすくなると信じています。アクセシビリティもそんな技術がきっと後押ししてくれる。

今日のいちまい

写真:ふわふわ泳いでるくらげ
うみたまごのくらげ

去年2019年の3月に大分のうみたまごに行った時に出会ったくらげです。細かいちり?が白くキラキラして、星空の中を泳いでいるみたい。ふわふわきれいです。

auther

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yocco*

ウェブアクセシビリティに関するお仕事をしています。写真を撮ったり文房具を集めたりするのが好きです。

Twitter:@yocco405